2017年08月31日

(ガン)アクション小説を語ろう 〜深見真 ゴルゴタ編〜



「拳銃だ。注文通り三丁」

中川は、一丁ずつ丁寧に並べていく。

「スプリングフィールド・アーモリーのXD45タクティカル、そのカスタムモデル。米軍のベレッタM92FS。そしてグロック17だ。ベレッタとグロックは九ミリ(九×十九ミリ)、同じ弾薬を使用可能。XD45だけは、四十五口径ACP弾(十一・四三×二十三)を使う。拳銃は、XD45をメインにするといい。XD45のカスタムはプロ仕様だ。トリガープルは一・四キロ。バレルはKART社製で高精度、グリップは滑り止めのシボ加工で握りやすく、リアサイトは大型のノバックでかなり見やすくなってる。銃口が延長してあるから、さらに危ないオモチャを追加する事も可能だ」


ー 深見真著 「ゴルゴタ」文庫版P141より引用





(ガン)アクション小説を語ろう 〜深見真 ゴルゴタ編〜









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前回の記事、『(ガン)アクション小説を語ろう 〜始めに〜』編を読んで頂いた後に今回の記事をお読み頂けたら幸いです


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皆さんシャローム(ヘブライ語でこんにちはの意)



前回はガンアクション小説と言うものが如何に希少かと言う話を準備回として語ってみました。

それはひとえに今回の、これからの管理人が愛してやまないガンアクション小説を語る為であります。




語るぞー

今回は長えぞー

嫌な予感がしたらバックして下さいね☆ミ

















皆さんは人生を変える様な読書体験をした事ありますか?

その活字に溢れんばかりのエネルギーを宿し、人生観や善悪の判断に影響を及ぼし、その後の人生が変わった様な一冊と出会った経験は皆さんありますか?


管理人にはあります。

それが今回語る深見真著、2007年初版発行の「ゴルゴタ」と言うガンアクション小説です。

私が知る限り最もバイタリティに溢れ、最も凄まじい小説を語りたいと思います。





作品を語る前に深見真と言う作家さんをまず紹介しなければなりません。

深見 真(ふかみ まこと、1977年8月5日 - )は、日本の小説家、漫画原作者。熊本県熊本市出身。二松学舎大学中退。

大学在学中に「戦う少女と残酷な少年・古流兵術式密室」(『ブロークン・フィスト 戦う少女と残酷な少年』に改題)でデビュー。

萌えの仕事を好んでおり、また美少女アニメ全般が好きで、特にきらら系が大好き。

アクション描写、特に銃器、格闘技を用いた戦闘シーンの描写を得意とする。作中で同性愛を扱う事が多い。

2006年度には武蔵野美術大学の非常勤講師に就任。


Wikipediaより




概要だけですが、これで何となく不安感を覚えたそこのあなた、正常だと思います。

しかしながらそれだけで興味を剥がすのは正解であり間違いでもあります。



というのもこの作家さん、作風の間口とカタチが非常に幅広い方なんですね。

正直どう語った物か分からないレベルなのですが、強いて言えば得意な物だったらどんなスタイルでも全部行ける?



大まかにデビューから時系列で纏めると



デビュー作が前代未聞の格闘アクション×ミステリー、とんでもない密室殺人のトリックで伝説となる。

得意な物全部盛りな小説を送り出し始める、大体女の子と女の子と男の子と筋肉モリモリのオッサンとオバサンが血と色んな体液で出来た海でキャッキャウフフしてる作品。

ゲームの脚本や漫画原作で名前を見る様になる。

PSYCHO-PASSの企画に携わりその一期の脚本やがっこうぐらし(!?)、ゆるゆり三期(!!??)の脚本を書く。

現在小説、ライトノベル、漫画原作、アニメ脚本、ゲーム脚本、映画脚本を執筆する売れっ子作家に。




今では「PSYCHO-PASSの脚本書いた人」と言うのが一番通りが良いでしょうか。
いやバイオハザード:ヴェンデッタの脚本でしょうか?
はたまたベルセルクTVアニメ版の脚本でしょうか?

どれでもいいか


比較的アクは強い作家さんですが皆さんの好みに合う作品もきっとあります。



こう書くとなんなんですかねこの人。
よく分からない人です、私は大好きですこういう人。


管理人とこの作家さんとの出会いは2008年の9月だったと思います。


当時中学生でショッピングモール内にあるシネコンにハムナプトラ3を観に行った帰り、同じモール内の書店で平積みされていたアフリカンゲームカートリッジズの文庫版(キャッキャウフフ期の傑作です)の表紙に惹かれ手に取ったが最期、管理人の青春は灰色に染まる事となりました。


深見先生には青春を返して欲しいです、これ半分マジで。


今ではこんな男ですよ!?どうしてくれるんですかね!!?



(ガン)アクション小説を語ろう 〜深見真 ゴルゴタ編〜

虚空から銃を生み出せる超能力者が現れた世界でのドンパチを描いた作品。

このクッソかっこいい表紙を描いたイラストレーターの獅子猿さんにも俺の青春が灰色に染まった責任の一端があると思う。


ゴルゴタはAGCを取り憑かれた様に何週も読みふけった直後にすぐ買いました。


まあ愛憎入り交じる思いについては他の作品語る時にでも回すとして、本題に参りましょう。




あ、ネタバレありです。







ゴルゴタはフカミン(深見真センセの愛称)のキャッキャウフフ期に書かれた作品です。

ジャンルはガンアクション小説にして犯罪小説、復讐小説であり拷問小説にテロリスト小説にあたります。



……拷問小説でありテロリスト小説?とお思いの方もいらっしゃるでしょう。

しかしながら誤魔化しは効きません、これは紛れもなくテロリスト小説です。

あらすじを見てみましょう。




『最強と謳われる陸上自衛官・真田聖人の妻が惨殺された。
妊娠六ヶ月、幸せの真っ只中だった。
加害少年らに下った判決は、無罪にも等しい保護処分。
この国の法律は真田の味方ではなかった。
憤怒と虚無を抱え、世間から姿を消した真田は復讐を誓う。男は問う―何が悪で、何が正義なのか、を。
本物の男が心の底から怒りをあらわにしたその瞬間……。
残酷で華麗なる復讐が始まった。』

ー 公式より






……辛い


はい、重いです、辛いです。

しかしこの設定を捻じ伏せ読ませるだけの力を持つのがこの小説であり主人公です。




物語は石川県の日本海沿岸部に、一隻の小型船が座礁した場面から始まります。

漁船に偽装したその船に乗っていたのは十二人の北朝鮮工作員、洋上での暴力団との覚醒剤の取引の任務中に悪天候で流され座礁。

悪い事は重なり地元の警察官に目撃され、先走った若い兵士がその人物を射殺。

なし崩しに山中へ逃げ延びてのゲリラ戦に移行する工作員達、県警では手に余る事態に自衛隊が出動する事になります。

対処に当てられた部隊、人物こそが陸上自衛隊唯一の特殊部隊である特殊作戦群、その分隊長を務める物語の主人公、M4カービンとシグプロを携えた真田聖人です。

詰まる所日本に在住する日本人の中で最強の男と言えます。



武力衝突は特殊作戦群の働きにより県警以外の被害を出す事なく終息。

真田は妊娠半年の妻と訓練に囲まれた平穏な日々に戻ります。

自分がこの幸せに相応しいのかと戸惑いながらも満ち足りた生活を過ごす真田。

しかしその幸せの絶頂は消失します、妻が義母ともども殺害されると言う出来事に依って。

妊娠六ヶ月の妻が、自宅に押し入った暴力団幹部の子供を中心とする不良少年グループに数時間かけて陵辱され殺されると言う最悪の犯行に依って。



読んでいて心を抉られる様な思いでした。

同時に考えざるを得ない、自分にこんな理不尽が降り掛かったらどうなるかだろうか、正気を保てるだろうか。
どうするだろうか、とりあえず司法の裁きを待つだろうか。


真田も一人の司法の元に生きてきた者として法の裁きに任せます、「極刑が下されるなら俺にやらせろ」と一人犯行現場の自宅で吠えながらも。


下った判決は保護処分、刑事事件ではなく少年犯罪として処理された結果の無罪に等しい結果です。

粗筋にもある様に司法は真田の味方をしませんでした。

特殊作戦群分隊長として武力衝突に参加した真田は、事件を自衛隊及び防衛産業に対する牽制として政治的に利用されてしまったのです。

そしてこの時点で真田は真に絶望し、決意し、多くの人の運命は決まる事となります。

史上最強のテロリストとしての真田聖人の誕生です。


ここまでを序盤とし真田は失踪、物語は次のシークエンスへと進みます。


(ガン)アクション小説を語ろう 〜深見真 ゴルゴタ編〜

探しても十枚位しか出て来ない特殊作戦群隊員さんの画像、数えるほどしか出て無い記念式典で撮られた一枚。

これすらも実際の隊員さんの画像では無いとする話すらある。

露出が少ないにも程がある。









第二部(そう区切るなら)ではもう一人、信念を持った男が登場します。

警察側の主人公、名前は長間宗一郎。

警視庁捜査一課第二特殊犯捜査(所謂SIT)の刑事。

わかりやすいほどの叩き上げ、武闘派であり仕事を愛し、仕事以外を愛する事を忘れつつある、そんな男です。


妻とは既に別れ、親権を取られた高校生の娘への興味は薄れ、その娘が大物芸能人の家でそのドラ息子とその取り巻きとの乱交パーティに参加しようと、それその物を咎める様な事はせず。

場を盛り上げるための麻薬を見て恐れをなした娘からの連絡を受け、ただの面倒事として暴力を交え対処する、そんな男です。


法の実力の部分を司る番人と言った所でしょうか。



物語はそんな長間の視点を交えつつ、日本に再びその姿を表した真田が進め始めた状況 ー真田による犯人達の復讐へと展開します。


ここからは怒涛と言うに相応しい勢いで物語が進行します。


準備を整え始めた真田はもう止まる事はありません、止まれません。


真田は設定した通りに山積みの犯罪予定の一つ一つに必要な道具を買い、車を買い、銃を買います。

この記事冒頭の引用はそんな一幕の内のほんの一部です、原文ママです。

秋葉原にあるミリタリーグッズやトイガンを扱う小さな専門店、所謂サバゲーショップが裏稼業として実銃を販売しており、そこで買うと言う設定なのですが、ここで実に百行以上を銃器の説明に費やしています。


思えばこのシーンを読見切った瞬間に私の銃に対する好意、興味は一段階先に進んだのかも知れません。


中学生の身で百行からなる銃の情報の海に放り込まれたらどうなるでしょうか?

普通の人であれば滑るようにして泳ぎ最寄りの陸地へ上がるでしょう。

しかし潜る奴もいます、銃好きです、まったくひどい話です。




話を戻しましょう。





真田は復讐を進めている間殆ど感情を見せる事はありません。

訓練を受けた人殺しのプロとして、その力を行使し続けます。

真田は第一部にてカウンセリングにあたった精神科医から「解離の傾向がある」と分析されます。

目的の前では何の感情も抱かず、場合や程度によっては痛みや障害の認識すらしない、そんな精神傾向の事です。


真田の場合は性格の一部に留まりますが、それでも真田はその特殊な才能を以って状況をこなし続けます。


事件を受けて加害少年の警護に当たった警察官を殺し、加害少年宅に詰めていた暴力団を皆殺しにし、更には拉致した加害少年らを凄惨に拷問し、殺すまでを映像に収めます。

全てを淡々と、無表情で。
一つの目的の為に。



真田による止まらない犯行。

対象は加害少年らのみに留まらず彼等に保護処分を下した裁判官、その処分に必要な素材を調査した裁判所の調査官、少年の育て方を間違えた父親にまで広がります。


ここで長間は気付くのです、真田はテロリストだと。

真田が目的―問題提起とその解決策の行使の為に暴力・脅迫・恐怖を利用するテロリストであると。



事態を重く見た警察はただ一人残った加害少年とその父親の安全を確保すべく、重武装させた警官隊による護送計画を立案。

新宿四丁目から警視庁までの七キロ程の短い距離での護送に乗り出します。




護送中不自然に起こる進行先での事故。

四谷見附で停車してしまう護送車列。



焦る長間、後方から現れるトラック。

運転するのはガスマスクで顔を隠した真田聖人。

ベストにはロシア製のAK103を吊り、ホルスターにはXD45タクティカルを挿し、手には二百発の弾倉を繋げた軽機関銃MINIMIを持った最強のテロリストが降り立ちます。


この小説のハイライト、四谷見附交差点での銃撃戦― 持てる限りの武装をした長間率いるSITを始めとした、SAT、機動隊、銃器対策部 隊、交通機動隊……部隊の規模から考えておよそ百名弱を相手取っての、真田による戦争行為が始まります。



(ガン)アクション小説を語ろう 〜深見真 ゴルゴタ編〜


現実の四谷見附交差点





またたく間に警察の武装部隊一個小隊を薙ぎ倒した真田は、次の対象を探す前に本文中こう述懐します。



「敵は爆発物を使ってこないし、狙撃手もいない。楽な相手だ。」  ―文庫版P318より引用




私は読んでいてここで一番ゾッとしました。

優れた描写により積み重ねていた説得力が知らぬ間に育ち、花開いた瞬間です。

フィクションで有る事が完全に頭から離れ、真田と言うキャラクターを現実の人物かのように認識し恐れをなしました。







そして物語は熱量を落とす事なく結末に向かいます。


隠す事なく語るなら私は結末で本を読んで初めて大泣きしました。
但し書きして置きたいのが凄惨な物語ではありますが、陰惨な終わり方では無いと言う事です。
素晴らしい読後感に包まれる事ができる終わり方です。






壊れた機械の如く死体を量産し続ける真田の姿は狂人の様であり、大義のみを主人とし仕える騎士の様でもあります。


真田聖人を一言で言うならダークヒーローでしょう。

他の方の書評では「真田聖人はまさに日本版ランボーと言える」との記述が見られますが、私が近いと感じその姿を重ねるのはMARVELレジェンドの一人。

ヒーローであり時にヴィランでもあるフランク・キャッスル=パニッシャーです。


(ガン)アクション小説を語ろう 〜深見真 ゴルゴタ編〜


皆殺し系ヒーローとして有名なアメコミヒーローパニッシャー、真田はパニッシャーのオリジン等共通する物が多い。

単独ドラマ楽しみです。





きっとエピローグの状況を切り抜けたとして、切り抜けるでしょうが、その後も真田に安らぎの時は訪れないのだと思います。

そう死ぬまでリラックスできる瞬間は無いでしょう。

心臓が止まるその瞬間まで絶望に喘ぎ、後悔に苛まれ、虚無に苦しむのでしょう。

真田に救済は無いでしょう。





真田は作中でゴルゴタの丘の処刑人を名乗っています。

順当に考えれば真田は日本と言う国をゴルゴタの丘と見たのでしょうが、現実はそうではありません。

ゴルゴタの丘で磔となったキリストを槍で突き、死亡を確認した盲目の処刑人ロンギヌスはキリストの返り血をその目に浴びた事で視力を取り戻したと福音書外典にはあります。


しかし真田にはそれすら無いでしょう。


大義以外見据える事の無くなった、ある種盲目と同じと言える真田の世界の見方が回復する事はありません。

どれだけ死体を作ろうが、どれだけ返り血を浴びようが、最終盤に長間が言う様に、真田が殺したのは聖者でも神でもなく、薄汚いガキなのですから。




重く辛く苦しい話です。
それでも私はこの本を定期的に読み返さずにはいられません。
嫌な事、辛い事があった時に手に取り、読み返さずにはいられません。


それは何故か。


大袈裟に言ってしまえば私にとっての聖書の様な本であるからです。

私はこの本を読んで初めて犯罪や善悪を深く考えました。

滅多には無いですが、それでも日常で理不尽がのしかかってくる事、難しい善悪の判断が必要になる事はあります。

そんな時私はこう考えるのです。


「あの本物の男ならどうするか?」


その上で判断をし、行動を選ぶ。

誤解を恐れずに言えば、私もまた真田聖人と言うテロリストに感化された人間なのかもしれません。






タイムリーな事につい先日、書店のブックファーストが行っているPUSH!1st.と言う企画でこのゴルゴタが選出されました!

http://www.book1st.net/push/no17/

やったね!





皆さんも是非読んでみて下さい。

犯罪について、少年法の是非について、善悪について盛んに議論される時機は過ぎ去ったかもしれません。

それでも私はそれらは常に現代社会に生きる全ての人が考えるべき問題だと思います。

そう全ての人がこの小説に打ちのめされるべきだと思います。

この本、凄いオススメです。









書き終わってみれば準備回まで用意したミリタリー要素を言う程語ってないですね、こんな事になるとは思わなかった……

いやあ自分でも思わず力が入ってしまいました、俺この作品こんなに好きだったんだな……









長文となりましたが読んで頂きありがとうございました。

最後にこの愛しい小説が、より多くの人の手に取られる事を祈りながら、この記事を終わります。





Posted by フユト at 19:49│Comments(0)小説ネタ
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